越境ライブコマースに手応え「ダブルスタンダード・クロージング」 人気ライバーで中国市場へ
2021年6月4日
フィルムの「ダブルスタンダード・クロージング」は、在日中国人ライバーを抱える企業と協力し、昨春から越境ライブコマースで実績を上げている。インバウンド(訪日外国人)売り上げが見込めない状況下にある今、海外の消費者とつながり、ファンを増やす貴重な販売窓口となりつつある。
(中村維)
■1回で800万円の実績
5月の週末、東京・青山にあるダブルスタンダード・クロージングのショールームでは、モデルの女性2人が2台のスマートフォンをのぞき込み、サンプルをとっかえひっかえして商品説明していた。今はやりのライブコマースの1コマではあるが、しゃべり続けているのは中国語。スマホの向こうで視聴しているのは、本土の中国人たちだ。片方のスマホは配信用、もう片方でライブ中の画像や続々流れるチャットコメントをチェックし、即座にリアクションする。配信開始30分後には、視聴者数は1万人を超えた。
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ダブルスタンダード・クロージングでは、昨年の4月から、展示会ごとの週末にショールームで越境ライブコマースを実施してきた。即売ではなく、先物の予約販売の形を取り、納品は3~4カ月後となる。1回のライブで4時間ほどかけて50~60型を紹介。「1回目の売り上げは100万円程度で、 そんなものかなと思ったのですが」と担当するフィルムのショップディレクター中島雄太さん。しかし商品発送後、「想像以上にクオリティーがいと消費者からの反応がすこぶる良く、リピーターがつき、直近では1回の実施で800万円どの売り上げが立つよになった。受注期間はライブ後1週間ほど設けている。配信は継続することでファンが増えるため、5月は初めて在庫のある商品での即売を実施した。「今後、できれば毎月ライブを行い、年間売り上げ1億円を目指したい」とする。
■ノウハウ持つライバーと
ライブ配信は、リテール技研(横浜市、中林清人社長)と、ザベッセルラボ(大阪市、テイ・シュンケツ社長)の2社に主な運営を委託している。ライブは、ザベッセルラボがタオパオ上に持つ日本ファッション専門のライブコマースチャンネル「万事屋日本直送」で配信。タオバオで26万人、ウェイボーで10万人弱の登録者数がある。ザベッセルラボは配信に出演する中国人モデルを組織し、洋服に関する知識やコーディネートの仕方、服にマッチする髪形、ライブの際のコメントのポイントなど随時研修を行い、モデルを人気ライバーへと育てている。
どんなブランドが中国のどのエリア、客層にどれくらいの価格でマッチするかなどのリサーチも行っている。ダブルスタンダード・クロージングは、「中心顧客は上海、北京といった都市部に住むキャリア女性、特に役職者や経営層に好まれる」とテイ社長。前回の展示会の際に実施した回では、3万8000円のワンピスが一番人気で100着のオーダーが入るなど、客単価も比較的高い。同ブランドは、エレガンス系に強い人気モデルのコウさんお気に入りでもある。ブランド知名度が中国本土で高くなくても、人気モデルが紹介すれば、多くの消費者に響く。
中国本土にも在宅スタッフがおり、ライブ中のチャットや、受注期間での間い合わせに対応。「1ライブあたり7~8人が付きます。このフォローが成約率を上げるカキ。ライブだけでは売れません」。
■コミュニケーション
リテール技研は、ザベッセルラポとアパレル企業の間をつなぐ存在だ。同社は、在日でモデルを抱えライブコマースを行う複数企業とネットワークを持つ。ブランドとのマッチングやスケジューリング、ブランド側への決済代行などを担う。決済は先払いで、販売手数料を引た販売代金をブランド側に入金後、商品がライブコマース代行会社に一括で送ら
れる流れだ。
リテール技研の中林社長はこれまで、企業のシステム構築や、越境ECサイトへの出店支援などを行ってきた。その中で、タオバオ上で日本ブランドの代理購入を行うパイヤーたちに着目。「代理購入って、昔はいいイメージが無かったかもしれませんが、話を聞いてみると皆日本のファッションが好きで、きめ細かな検品や消費者対応で地道にブランドのファンを増やしているんです。こことブランドが手を組めば、よりスムーズに中国進出のお手伝いができるはず」と考え、今のビジネスモデルに行きついた。初めから越境向けの大手モールに出店するよりも、ライブコマースで認知を高めた後に、本格進出する。その一連のサポートができればと話す。現在、ライブでは約30ブランドで実績がある。
ダブルスタンダード・クロージングはコロナ前、多い店では約2割ほどインバウンドの売り上げがあった。今、来日客はゼ口に等しいなか、ライブコマースは、中国本土の消費者とコミュニケーションを継続できる、ユニークなチャネルだ。「ブランドを大事にし、顧客重視でファンを増やし、中長期で中国市場を開拓しようとの方向性を3社で共有できている」とフィルムの中島さん。将来、インパウンドが復活した後も、ライブコマスと、来日しての併買による「相乗効果も期待できる」とし、一層力を入れる。
